「紅茶なのに、なんでブラックティー(black tea)なの?」
改めて言われると確かにちょっとおかしいですよね。
“紅”茶ですから、素直に英訳すれば red tea あるいは deep red tea のはずです。逆に black tea を和訳するなら「黒茶」のほうがしっくりきます。
そこで今回は「なぜ紅茶は英語だとブラックティー(black tea)なのか」を調査し、まとめてみました。
結論から申し上げますと、紅茶と black tea の間にミスマッチが生まれている理由は、そこまで複雑な話ではありません。
同じ疑問をお持ちの方は、紅茶を片手にサラッと読んでみてください。
紅茶がブラックティー(black tea)なのはなぜ?その起源となる17世紀イギリスのお茶事情
まずは、紅茶が black tea と呼ばれるに至るまでの経緯から見ていきましょう。
紅茶と言えば、アフタヌーン・ティー発祥の国であるイギリスを連想する人も多いと思います。
そのイギリスへ「お茶」が伝わったのは17世紀初頭。中国から海路を経て輸入されました。
ただ、この時点でイギリスへ流入したのは紅茶ではなく緑茶であり、tea は緑茶を指す言葉でした。
ブラックティー(black tea)は green tea と区別するためにイギリスで生まれた呼称
17世紀後半にかけてイギリス国内のお茶に対する需要は高まり続け、付随して中国との貿易も盛んになっていきます。
その時期に中国から流入したのが褐色の発酵茶であり、発酵度合いの見直しなどを経て紅茶として広まっていきました。
その結果、イギリスでは大別すると色味の異なる2種類のお茶が流通することになります。
その両者を区別するため、「green tea⇔black tea」という言葉が生まれました。
- 緑色の茶葉で淹れる緑色のお茶▶green tea
- 褐色の茶葉で淹れる褐色のお茶▶black tea
ブラックティー(black tea)が日本語で「紅茶」になった理由は?
一方、日本が紅茶を知ったのは18世紀から19世紀のこと。欧米諸国では black tea の文化が定着し、当たり前のように飲まれていた時代です。
その時系列で考えると、すでに各国で浸透していた black tea の和訳が「黒茶」ではなく「紅茶」なのは腑に落ちないですよね。
そこで、次は紅茶が日本へどのように流入してきたのかを見ていきましょう。
日本で初めて紅茶を飲んだのは伊勢の船頭「大黒屋光太夫」
紅茶を飲んだ日本人の第1号は、伊勢で回船の船頭をやっていた大黒屋光太夫だと言われています。
1782年、船で江戸へと向かっていた光太夫は、嵐に遭遇しロシア領へ漂着。無事に保護され1792年に帰国しました。
帰国後、光太夫はロシアで過ごした約10年間を時の将軍・徳川家斉へ報告。その内容をまとめたのが桂川甫周の『吹上秘書漂民御覧之記』です。
その中には「紅茶」という単語こそ登場しないものの、「ロシアではお茶に砂糖やミルクを入れて飲む」といった旨の記録があります。
この光太夫がロシアで振る舞われたお茶が、日本人が初めて飲んだ紅茶です。
中国から日本へダイレクトに流入した「紅茶」
明治維新後、ようやく日本国内でも紅茶の製造が始まります。その際に日本がまず参考にしたのは、中国の紅茶づくりでした。
政府は、国内の紅茶産業推進のために海外の著名な産地の調査研究が必要だと考え、その適任者として白羽の矢が立ったのが、多田元吉でした。(中略) 茶の栽培法の改良を進めるなど熱心な開拓を続けていた元吉は、1875年(明治8)年、通訳2名と清国へ派遣されます。
出典:キリンホールディングス『酒・飲料の歴史 第6話 日本の紅茶史』
中国茶は大きく6種類に分類される!そのうちの1つが「紅茶」
今ではご存知の方も多いと思いますが、緑茶・烏龍茶・紅茶などの原材料はすべて同じで、チャノキというツバキ科の常緑樹の葉です。
そして、原材料が同じチャノキの葉であっても、発酵度合いを変えることでさまざまな種類のお茶が生まれます。
中国茶の分類は上記6種類。そのなかの1つ、完全発酵させた茶葉で淹れるお茶が紅茶です。
つまり、イギリスで black tea という呼称が生まれる前から、中国には「紅茶」という言葉が存在していました。
そのため、中国の影響を大きく受けている日本には、当初から紅茶は「紅茶」として流入してきたものと考えられます。
ブラックティーは何種類ある?世界の代表的な紅茶産地を紹介
中国から広がっていった紅茶は現在、世界のさまざまな地域でつくられています。
代表的な産地を以下にまとめてみました。
- 中国
- 安徽省(祁門紅茶)、雲南省(滇紅紅茶)、四川省(川紅) など
- インド
- ダージリン、アッサム、ニルギリ、シッキム、ドアーズ など
- スリランカ
- ウヴァ、ディンブラ、ヌワラエリヤ、キャンディ、ルフナ など
- インドネシア
- ジャワ、スマトラ
- マレーシア
- キャメロン・ハイランド
- トルコ
- リゼ
- ケニア
- ルクリリ
- マラウィ
- タンザニア
高級・高品質で知られるスリランカの紅茶
ジョージスチュアートティの紅茶がつくられているスリランカも、世界有数の紅茶産出国です。
スリランカには以下のように、7つの代表的な紅茶産地があります。
- ウヴァ
- ディンブラ
- ヌワラエリヤ
- キャンディ
- ルフナ
- ウダ・プッセッラーワ
- サバラガムワ
このうち、ジョージスチュアートティで取り扱っているのは旧五大産地にあたる1〜5の茶葉です。
スリランカの紅茶については以下のコラムで解説していますので、詳しく知りたい方はご参照ください。
紅茶の名称・呼称に関してよくある質問
最後に、紅茶の英語表記に関連する部分でよく挙がる疑問・質問をピックアップし、回答したいと思います。
Q.ブラックティー(black tea)とアールグレイの違いを教えてください。
まず、black tea は「紅茶」の総称です。
その「紅茶」を大きくグループ分けすると、①単一茶葉の紅茶(=シングルオリジン)、②複数の茶葉を組み合わせた紅茶(=ブレンドティー)、③フルーツや植物などの香りを加えた紅茶(=フレーバーティー)の3つに分類されます。
そして、フレーバーティーの種類の1つがアールグレイです。両者の関係性を体系化すると以下のようになります。
- 紅茶(black tea)
- シングルオリジン(単一茶葉)
- ダージリン
- アッサム
- ウヴァ など
- ブレンドティー(複数茶葉の組み合わせ)
- ダージリン×アッサム
- ダージリン×ルフナ など
- フレーバーティー(フルーツや植物などで着香)
- アールグレイ
- アップル
- ピーチ
- ローズヒップ など
- シングルオリジン(単一茶葉)
アールグレイは、19世紀から今日に至るまで世界中で愛され続けているフレーバーティーの代表格です。
「ベルガモットの香り」という大きな共通点はあるものの、ベースとなる茶葉のチョイスや素材の配合比率などはメーカー・ブランドごとに異なります。
そのため、さまざまなアールグレイの飲み比べてみるのもおすすめです。
Q.レッドティー(red tea)とブラックティー(black tea)の違いを教えてください。
「red tea」と「black tea」は異なる種類のお茶ですが、それぞれが何を指すのかは店や地域によって異なります。
英語圏だと black tea は紅茶、red tea はルイボスティーを指すのが一般的です。
ただし、中国や中国茶の種類が豊富な専門店・飲食店において、以下のように表記されているケースもあります。
- red tea:紅茶
- black tea:黒茶 ※普洱(プーアール)茶など
この場合、「紅茶」に該当するのは black tea ではなく red tea なので注意してください。
結論:日本人が知った「紅茶」は、その時点で英語圏では「black tea」と呼ばれる飲み物だった
「紅≠black」なのに「紅茶=black tea」というミスマッチが生じている理由については、諸説あると思います。
ただ、英語圏と日本とで紅茶の流入経路が異なるのは間違いなく、その点から展開した考察に近い形ではありますがコラムとしてまとめてみました。
日本へ紅茶が流入した時期は幕末から明治初期にあたり、紅茶の歴史をたどると「開国」や「文明開化」など日本史に登場するような事象との関連性が見えてきたりもします。
そのあたりに興味がある方は独自でさらに調べていただくと、より楽しく理解を深められると思います。
なお、お手元に black tea のティーバッグなどがある方は以下のコラムも合わせてご参照のうえ、おいしい紅茶をお楽しみください。