紅茶について調べていたり、紅茶のパッケージを眺めていたりすると頻繁に目にする「ダージリン」と「アッサム」。
どちらもインドで栽培されている代表的な紅茶の茶葉ですが、その特徴や味わいは正反対と言っていいくらい異なります。
今回はそんなダージリンとアッサムにフォーカスし、味や香りなどの特徴をまとめました。
また、ティーインストラクターの吉村さんにご協力いただき、「ダージリンやアッサムが好きな方へおすすめしたい紅茶」もピックアップして紹介します。
何となく聞いたことのあるダージリンとアッサムの違いをきちんと知りたい方、これから紅茶を趣味にしようと思っている方はぜひご一読ください。
ダージリンとアッサムの違いは?同じインドで生まれながら異なる個性をもつ2つの紅茶
ダージリンとアッサムは、ともに紅茶の名称であると同時に産地の名称です。
どちらもインド北東部のヒマラヤ山麓に広がるエリアですが、紅茶の個性はそれぞれ異なります。
その違いを生む主要因となっている茶葉の栽培環境や原料に着目しながら、ダージリンとアッサムの特徴を見ていきましょう。
「ダージリン」の特徴は?“紅茶のシャンパン”とも称される華やかな味と香り
ダージリン地方は標高600〜2,500mの山岳地帯ですが、ダージリン紅茶の特徴をより顕著にあらわしているのは標高1,200m以上の茶園で栽培されている茶葉です。
紅茶や緑茶などの原料であるチャノキ(学名:カメリア・シネンシス)は、大きく分けると以下の2種類です。
【中国種】
葉が小さく(3〜4cm × 6〜9cm)カテキン含有量が少なめ。耐寒性があり、温帯向き。
【アッサム種】
葉が大きく(4〜5cm × 12〜15cm)カテキン含有量が多め。高温多湿の土地を好む。
また、中国種とアッサム種を掛け合わせたものをハイブリッド(交配種)、優良な品質のチャノキから挿し木により選抜育成されたものをクロナール種といいます。
ダージリン地方のなかでも、標高の低い地域では熱帯に適合するアッサム種やアッサム交配種が栽培されています。ただし、多く栽培されているのは中国種と中国交配種です。
また、ダージリンには特有のフルーティな香りがあります。
中国種の茶葉はアッサム種と比べて水色が薄く、デリケートで上品な香気があります。
一般的なダージリンは、果物に似た爽やかなフレーバーとコクがある紅茶です。ただ、とりわけセカンドフラッシュ(5〜6月)の卓越した茶葉の中には、マスカテルフレーバー(完熟したぶどうのような芳香)があるものもあります。
また、シトラス系などマスカテルフレーバーとは別のフルーティな風味をもつ中国交配種のダージリンもあります。
その高貴な味と香りは「紅茶のシャンパン」とも称され、中国の祁門(キーマン、キームン)やスリランカのウヴァと並ぶ世界三大銘茶として広く知られています。
ダージリンのおすすめの飲み方
ファーストフラッシュ(3〜4月)とセカンドフラッシュ(5〜6月)のダージリンは、特有の上品な風味をダイレクトに味わえるストレートティーがおすすめです。
また、より繊細な香味を強調するために、あえて水出しで楽しむ方もいます。
オータムナル(10〜11月)のダージリンは赤みを帯びた美しい橙色の水色と穏やかな香味、のど越しのよさが特徴です。オータムナルもまずはストレートで召し上がって頂くのをおすすめします。
ダージリンが好きな方へおすすめ!スリランカ紅茶「ヌワラエリヤ」の魅力
ダージリンのように上品で華やかな紅茶が好きな方には、スリランカのヌワラエリヤもおすすめです。
標高1600~2000mのスリランカ南西山岳地帯にあるヌワラエリヤでは、ダージリンと同じような環境で紅茶が栽培されています。
甘い花や果実を思わせる優雅でデリケートな香り、パンジェンシーと呼ばれる緑茶のような爽快で心地よい渋味とキレ味が特徴です。
透明感のあるキラキラとした明るいオレンジイエローの水色から、“セイロンティーのシャンパン”と称されるところもダージリンと似ています。
ヌワラエリヤの特徴を生かした飲み方も紹介しますので、ぜひ1度お試しください。
若葉を思わせる清々しい香りと軽やかな味わいは、ストレートで味わうのが最適です。
また、程よいキレと爽やかさがあるため、アイスティーやレモンティーにしてもおいしくいただけます。ちなみに、レモンティーの場合は渋みが強くなりすぎないように、レモンスライスを短時間くぐらせる程度に入れるのがポイントです。
ヌワラエリヤの繊細でグリニッシュな香りは和菓子、特に桜の葉が香る桜餅がよく合います。またフルーツ、特に柑橘類を使ったお菓子とも好相性です。
「アッサム」の特徴は?重厚感のある“らしさ”満点の紅茶
一方、標高50〜100m程度の平原であるアッサム地方のチャノキは、アッサム種やアッサム交配種が中心です。
アッサム種の茶葉は中国種よりサイズが大きいため、収穫量は相対的に中国種よりも多くなります。また、紅茶の製造に不可欠な酸化酵素の活性が強いことも特徴です。
そのため、紅茶に適した茶葉としてアッサム地方だけでなく、スリランカやケニアなど様々な国・地域で栽培されています。
緑茶・烏龍茶・紅茶の原料はすべてチャノキ(学名:カメリア・シネンシス)です。茶葉を発酵させずにつくると緑茶、部分発酵または半発酵させてつくると烏龍茶になります。
紅茶をつくるには茶葉を充分に発酵させる必要があるため、酵素は紅茶を製造するうえで非常に重要です。
そして、味わいの面でもアッサムとダージリンには違いがあります。
アッサムの特徴は、カテキンを多く含む茶葉から抽出された濃厚なコクと甘みの強い味わいです。
また、大きめの茶葉(オレンジペコーやブロークンオレンジペコー)のアッサムは、ストレートでも芳醇で豊かな香味を楽しめます。
アッサムのおすすめの飲み方
紅茶らしさが強調された重厚な味わいのアッサムは、ミルクティーで楽しむのがおすすめです。
また、ミルクやスパイスを加えて楽しむチャイのベースとなる紅茶の定番でもあります。
アッサムが好きな方へおすすめ!スリランカ紅茶「ルフナ」の魅力
重厚感のあるアッサムの紅茶が好きな方には、スリランカのルフナもおすすめです。
ルフナの茶葉は、スリランカの中央山脈の南に位置する標高200~700mほどの低地で栽培されています。
気温が高いため発酵が強く、濃厚なコクとボディ、ほのかな甘みとエキゾチックでスモーキーな香りがあります。それでいて、渋みはマイルドなのがルフナの特徴です。
ルフナは特に中東で人気が高く、オークションにて高値で取引される茶葉としても有名です。
こちらもおすすめの飲み方を紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
ルフナの濃い赤褐色の水色と濃厚なコク、穀物を想起させるモルティな味わいはミルクティーやロイヤルミルクティーに大変よく合います。また、スパイスとの相性もいいのでチャイもおすすめです。
ただ、個性的なのに飲みやすいルフナの魅力を体感するためにも、1度はストレートで飲んでいただいたほうがいいかもしれません。
ルフナのスモーキーな香りはチーズや、チーズを使ったお菓子・お料理によく合います。また、しっかりとしたコクとマイルドな渋みは、旨み・甘味が凝縮されたドライフルーツやスパイス、それらを使用したお菓子とも好相性です。
「ダージリン」「アッサム」に関してよくある質問
最後に、ダージリンやアッサムと合わせてよく話題になる疑問・質問をいくつかピックアップしました。
ティーインストラクターの吉村さんに回答・アドバイスをいただきましたので、ぜひ参考にしてください。
Q.ダージリン・アッサム・アールグレイ・セイロンの違いを教えてください。
まず、要点を箇条書きでまとめてみます。
- ダージリンとアッサムはいずれもインドの紅茶産地であり、それぞれの産地で収穫される茶葉の種類です。
- 紅茶には、茶葉にフルーツや植物で香りづけをするフレーバーティーというカテゴリがあります。アールグレイは、その種類の1つです。
- セイロン(セイロンティー)は、スリランカ産の茶葉を使った紅茶の総称です。
以上を体系化すると、以下のようになります。
- 紅茶
- シングルオリジン(単一茶葉)
- インド産の茶葉
- ダージリン、アッサム、ニルギリ など
- スリランカ産の茶葉(=セイロンティー)
- ウヴァ、ヌワラエリヤ、ルフナ など
- 中国産の茶葉
- インドネシア産の茶葉 など
- インド産の茶葉
- ブレンドティー(複数茶葉の組み合わせ)
- ダージリン×アッサム、ダージリン×ルフナ など
- フレーバーティー(フルーツや植物などで着香)
- アールグレイ、アップル、ピーチ、ローズ など
- シングルオリジン(単一茶葉)
ダージリンとアッサムの違いについては本コラムのメインテーマなので、最初から読んでいただければ幸いです。
ベルガモットの香りが特徴のアールグレイは、世界中で愛飲されている代表的なフレーバーティーです。
あくまでもフレーバーの名称なので、ベースの茶葉がダージリンの場合もアッサムの場合もありますし、以下のようにスリランカ産の茶葉を使ったアールグレイもあります。
なお、セイロンティーについては以下のコラムにまとめていますので、ぜひご参照ください。
Q.ダージリンとアールグレイはどっちがおいしいですか?また、飲みやすさに違いはありますか?
明確な回答は難しいですが、ダージリンとアールグレイにはそれぞれ以下のような特徴があります。
【ダージリン】
茶葉の収穫時期により特徴が大きく異なる。
・ファーストフラッシュ:爽やかで若々しい香味
・セカンドフラッシュ:完熟した果物と花の香り
・オータムナル:穏やかで喉越しがよい
【アールグレイ】
・ベルガモット(柑橘系)の甘酸っぱさと爽快感
そのため、ご自分のお好みの味・香りにより合うほうをお選びください。
また前述のとおり、両者の特徴をバランスよく兼ね備えたダージリンベースのアールグレイもありますので、こちらも試してみてはいかがでしょうか。
Q.ダージリンとアールグレイ、飲みやすさに違いはありますか?
飲みやすさについても一概には言えませんが、アールグレイの場合はベースの茶葉が低地産のもの(アッサム、ルフナなど)よりも、高地産のもの(ダージリン、ヌワラエリヤなど)のほうがすっきりしていて飲みやすいです。
ダージリンは「春先→初夏→秋口」と、茶葉の収穫時期が進むと水色が赤みを帯び、味わいや香りの特徴が変化します。ただ、一般的には上品な香りと爽やかな味わいがある、飲みやすい紅茶です。
紅茶選びに悩んでいる方は、そのあたりを基準に候補を検討してみてはいかがでしょうか。
Q.ダージリンをミルクティーで飲もうと思っています。おいしくなる作り方があれば教えてください。
まずはミルクティーに適した茶葉を選ぶことが大切です。
ダージリンの中では少量ながら10~11月に生産される、赤みを帯びた橙色の水色と穏やかな香味のオータムナルが比較的おすすめです。
また、ダージリンの特性を生かしたダージリンブレンドもミルクによく合います。
お好みもありますが、ファーストフラッシュ(3~4月)とセカンドフラッシュ(5~6月)は香味が繊細で水色が明るいため、ミルクに負けてしまう可能性があることをご留意ください。
ちなみに、おいしいミルクティーをつくるポイントは次の3つです。
【①適切な茶葉を選ぶ】
・ミルクを入れたときに美味しそうに見える赤褐色の水色
・酸化発酵が十分でコクがある
・紅茶のおいしさの1つである心地よい渋み成分(=カテキン)が多く含まれている
【②紅茶を濃くいれる】
茶葉の量を多めにする、または抽出時間を長めにする
【③牛乳は常温に戻してから加える】
ただし、温めると乳製品特有の香りが強くなる点に注意する
おいしい紅茶のいれ方については、以下のコラムもご参照ください。
産地によって味も香りも異なる紅茶の奥深さを引き続きお楽しみください
以上、今回のコラムでは誰もが1度は聞いたことのある「ダージリン」と「アッサム」について、それぞれの特徴をまとめました。
ただ「ダージリン」という名前の紅茶がすべて同じ味なわけではなく、同じ茶園でも生産の年度や茶畑の場所、日照条件などの環境の違い、栽培しているチャノキの種類や収穫の時期により味わいが異なります。
それを知っていくと「紅茶」はより楽しくなっていきます。いろいろな茶葉を試してお気に入りを見つけていただけたら幸いです。
なおジョージスチュアートティでは、本コラムにも登場したウヴァ・ヌワラエリヤ・ルフナを含むスリランカ旧五大産地のアソートティーバッグを販売しております。
同じスリランカ産の紅茶とは思えないくらい個性の異なる5つの味なので、ぜひ飲み比べを楽しんでみてください。
本コラムの監修者:Tea Instructor 吉村 良子
11月1日(紅茶の日)生まれ。国際線客室乗務員を経験し、訪れた国で生活や歴史に根ざしたユニークで奥深い紅茶の魅力を知る。
その後、ティーインストラクター資格を取得し、大手紅茶メーカーのアンバサダーとして契約。現在は企業や専門学校などの講師、レシピ開発など多方面で活動中。
【受賞歴】
日本紅茶協会主催 ティーインストラクター・オブ・ザ・イヤー2023 第3位